親知らず

定期健診とクリーニングのために、歯医者さんに半年に1回のペースで通っています。
去年の2月、親知らずが虫歯になりかけている、1~2年のうちには抜くことになるよと言われました。
虫歯の治療すらしたことがない私は、歯を抜くという事態を回避すべく、
電動歯ブラシを買って毎日丁寧に磨いてきました。

その甲斐あってか、2ヶ月ほど前の健診では、
「親知らずの虫歯、全然進行してませんねー。歯磨き、頑張ってるんですね」
と、衛生士さんに褒められました。

でも、このままなんとか抜かずにすまないかと思っているのを見透かしたように、

「今のうちに抜いておいたほうがいいですよー」
「親知らずは位置的に治療できないのでねー」
「一度虫歯になると治ることはないですしねー」

私が黙っていると、

「ひどくなると歯の頭の部分が崩れてくるから、器具をひっかけて抜くということができなくなりますよー」
「そうすると、歯茎を切開してえぐって……」
「時間もかかるし、大変なことになりますよー」

恐怖心をあおってきます。
そうかと思えば、

「今なら簡単に抜けますよー」
「しかも上の歯なのでねー、すぐ終わりますよー」
「だいたい痛んだり腫れたりするのは、下の歯なんですよー」
「下だったらもう大変ですけど、上の歯だから楽勝ですよー」
「ここの先生はみんな歯を抜くのが上手ですよー」

と、なだめすかしてきます。
首を縦に振らない限り、帰してもらえないような気がしてきました。

「ほんとにすぐ終わります?」
「15分ぐらいで終わります」
「結構かかりますね」
「下ならこんなもんじゃないですよ」
「抜かずに済むことはないんですか?」
「いつか抜くときがきます」
「絶対?」
「絶対」

もう私が折れるしかありません。

「……次に来るときまでに覚悟を決めておきます」←小声。
「はい、それでは半年後に」←食い気味。

来年の2月、親知らずを抜きます。
ただいま心の準備中です。

ねえさん