A Travel Journal
旅行記
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日本最東端の岬へ

札幌出張を利用して、長年の夢だった地、根室を訪れることにした。
時刻表を眺めると、札幌から日帰りで根室、さらに納沙布岬まで行けるとわかり、旅心が一気に燃え上がる。
札幌-根室、片道483.9km、往復967.8km。
私は日本最東端を目指す千キロの鉄道旅に身を投じていた。

★ おおぞら1号

札幌 06:48 → 釧路 10:56

この列車に乗り遅れたら、すべてが終わる。
興奮と不安でほとんど眠れぬまま夜を明かし、ホテルを出て札幌駅へ。
オール明けの若者たちと並ぶように歩く朝のすすきの。
駅北口のファミマでおにぎりを買い、改札を抜け、ホームでおおぞら1号を待つ。

6番線に入線してきた特急列車に乗り込む。
静かに発車した列車に揺られながら、まずは無事にスタートできたことに安堵して深い眠りへ落ちていった。

列車は千歳線から石勝線、そして根室本線へと走り抜ける。
かつて札幌から根室方面へ向かう主ルートだった根室本線は、石勝線にその座を譲り、
2024年3月末には富良野-新得間がついに廃止された。
鉄道ファンとしては、寂しさを隠せない。

帯広を過ぎると、私にとって未知の区間。
やがて警笛が鳴り響き、急ブレーキ。
線路上に野生動物が現れたのだろう。
この影響で、釧路には5分遅れでの到着となった。

★ 快速ノサップ

釧路 11:13 → 根室 13:26

釧路での乗り継ぎ時間は約20分。
とはいえ、快速ノサップが満席で座れなければ、2時間以上立ちっぱなしになる。
おおぞら1号が遅れたこともあり、急ぎ足でホームを移動。

幸運なことに、ノサップの車内は空いていて、進行方向右側の好位置に座ることができた。

ディーゼルの重厚な響きと微かに香る燃料の匂い。
気動車に揺られる時間は、私にとって何よりの贅沢だ。

厚岸駅に到着すると、地元特産の海産物を売る車内販売が。
札幌で買った駅弁があったにもかかわらず、ついつい手が伸びる。
スモークナッツ、牡蠣と灯台つぶのオリーブオイル漬け、そして「極みるくあいす」を購入。
ここで札幌駅で購入した駅弁を食べた。

【札幌駅で購入した「四種盛りかに小箱弁当」】

【厚岸駅の車内販売の商品一覧】

根室駅 13:35 → 納沙布岬 14:19

★ 根室交通・納沙布線

車窓には、原野、台地、そして雄大な太平洋が次々と現れる。
この路線、花咲線は、風景を眺めるだけで時間が溶けていく。
2時間13分の道のりが、夢のように過ぎていった。

根室に着くや否や、9分の乗り換えで納沙布岬行きのバスへ。
慌てて駅を出ると、目の前に目的のバスが待っていた。
「往復で買ったほうが安いですよ」
運転手さんの親切な言葉が、心に沁みる。
根室駅の温度計は15度を示していた。
半袖は寒いくらいであった。

バスは根室の市街を抜け、海沿いをひたすら東へ。
途中、日本最東端のゴルフ場「根室ゴルフクラブ」を目にした。
樹木一本ないリンクススタイルのコース。いつか回ってみたい。

昆布を干す家々を横目に見ながら、バスは進む。
そして、たどり着いた。
納沙布岬。
日本最東端の地に、私は立った。

【納沙布岬灯台】

観光客はわずか。
夏の青空、深い碧色の海、その向こうにはうっすらと歯舞諸島が見える。
「ここは、まだ帰ってきていない日本」そんな言葉が脳裏をよぎる。

花咲がにの鉄砲汁を食堂でいただく。
蟹の旨味がぎゅっと詰まっていて、たったの480円。心も体も温まる。

【花咲ガニの鉄砲汁】

★ 根室交通・納沙布線

納沙布岬 15:10 → 根室駅 15:54

滞在時間はわずか50分だったが、強く印象に残る風景と時間だった。
バスは信号のない道を快調に進む。
どこか名残惜しく、しかし満ち足りた気持ちで帰路に就く。

★ 5630D

根室 16:08 → 釧路 18:50

根室駅に戻ると、すでに列車が入線していた。
1両編成の気動車。
ちょっとした席取り合戦にも勝ち抜いて着席。
車内は静かで、ほとんどの駅で乗降はなし。
このまま廃線にだけはなってほしくないと、心の中で祈る。

【厚岸湖畔を走る花咲線】

★ おおぞら12号

釧路 19:00 → 札幌 22:59

旅のフィナーレは、再び特急おおぞら。
乗り継ぎ時間わずか10分で、釧路駅の外に出る余裕はなかったが、どうしても食べたい名物があった。
それが「いわしのほっかぶり弁当」。

改札の駅員に尋ねると「今の時間はもうコンビニ弁当ですね」との返答。
諦めかけたそのとき、視界にお弁当屋が。
店じまい寸前の棚に、奇跡的に残っていた最後の一つ。
「これ、もらえますか?」
「どうぞどうぞ」と店員のおばちゃん。

そして車内で実食。
脂ののったいわしが、口の中でほどけていく。
いわしの鮮度にこだわるため、駅弁フェアではお目にかかれない逸品。
次に釧路を訪れることがあれば、いわし三昧といきたい。

日もとっぷりと暮れた北の大地を、特急はひた走る。
ディーゼルエンジンが唸る音とジョイントを刻む音のシンクロを聴きながら、長い旅の余韻に浸る。
札幌着、22時59分。ほぼ定刻。
走行距離およそ1,000キロ。
北海道の東野果てまで行き、また戻ってきた。
心地よい疲労と、確かな達成感を胸に。
私は札幌の夜に降り立った。

【路線図】  「JTB時刻表2025年7月号」©JTBパブリッシング
【時刻表】  「JTB時刻表2025年7月号」©JTBパブリッシング
【時刻表】  「JTB時刻表2025年7月号」©JTBパブリッシング